猫轍守衛の偽業務日報

訳あって暇人やってる、その昔似非鉄道趣味者だったクズの毒吐きブログ。虎もライオンもデカい猫だけど、文句ある?

とある業務上過失致死傷罪公判の証人尋問

先日のエントリで触れた『玄牝』の件(http://d.hatena.ne.jp/nekotetumamori/20110205/1296933341)、神戸アートビレッジセンターでの上映は一昨日の午前中の上映分で最終だった。結局今回は見送り。まあそのうちまた近くで見る機会はあるだろうから、暫くレビューは他の人に任せる。
実は17日、やはり見ずにdisるのもどうかと思い神戸アートビレッジセンターまで行ってみた。毎週木曜日は映画はどの作品も一回1000円で見れるとの事なので。だが出かけた時間が少し遅かった。先週まで午前と午後に一回ずつ上映されていたのが2月12日以降は午前の部のみとあって、結局割安の値段で見るチャンスを逃してしまった。先週行けばよかったかorz
仕方がないので三宮方向へと歩いているうち、偶然にも神戸地裁の前を通りかかったので、掲示板に福知山線脱線事故に関する山崎JR西前社長公判の件で何が掲示されていないか見てみたら、午後1時から公判開始とあった。一瞬どうしようか悩んだが、まあ一度見ておくべきだろうと思っていたので昼飯を簡単に済ませて再び神戸地裁に行った。
公判の傍聴券をもらうために必要な傍聴席整理券の配布場所は地裁の建物西側。整理券をもらって待っていると定員を越えたので抽選を行うとのアナウンスが。抽選のやり方は整理券と引き換えに大きめの筒に入った棒を一本引き、棒の先が黒なら「あたり」で赤なら「はずれ」。私は運よく(?)「あたり」だったので傍聴券をGETする事が出来た。余談だが、『カモノハシのイコちゃん』の反射材チャームを付けたショルダーバックを所持していた、明らかにKYな奴が外ならぬ私ですw
この日の公判は101号法廷で行われた。抽選が行われた場所から建物内に入ってスグの場所にある。法廷内では携帯電話の電源は勿論OFFだ。裁判の傍聴は初めてなので、手荷物とかどうするんだろうと思ってたら預かる所はないとの事なので、傍聴席で自分の足元に置く事に。
以下は私の見聞に基づき覚えている限りの話の内容に基づいて書く(聞き間違いがあるかもしれないので、誤った箇所があれば指摘のほど宜しく。)。公判でどんな事が尋問されていたかというと、この裁判で問われているATS-P設置の是非に関して、事故を起こす5年前に事故現場付近のカーブよりさらに緩いカーブにおけるATS対策を提案した社員に「あのカーブより大きいカーブでATSの対策をしようとしたのは何故?」という件。
証人は120km/h区間で運転士としての乗務経験と運転士育成に携わった事がある技術職の人。金沢支社勤務だったが後に本社勤務になったとか。ちなみに130km/h区間は添乗のみだという。
彼は平成13(2001)年頃、当時の運輸部長からヒューマンエラーについて調べた上で対策案を出せと言われ、ATS対策と分岐器の速度超過対策を提案したらしい。その対策を出す為に社内の資料を調べたがめぼしいものがなく、仕方なく諸先輩方に話を聞いたり専門書を見たりしたらしい。
なおATS-Pに関しては芦屋駅構内に設置される際に作業の補助をしただけで、カーブ設置分については触れていないが曲線部分におけるATS-P対策はされていると思い込んでいたという。この時点で、早速検事に「調書と違う」とつっこまれて「そんな事は言っていない」と反論するも既にタジタジ気味のご様子だったが……。
そしてこの尋問の争点となったのは、彼がJR西内部の「ATS幹事会」という会合の場に出席した際に提出した資料に、なぜヒューマンエラー対策としてATSの整備が必要かという説明の所で「最悪の場合、脱線の可能性もある」という文言を書いたのかという事。これに関しては証人、やはり検事の煽りたっぷりなツッコミにタジタジになりながら「脱線の可能性についてはあくまで一般論や計算上の話であって、現実的にはありえないと自分の乗務経験からもそう思っていた。ヒューマンエラー対策はお客様の安全の為。」という事を繰り返し主張。その上で「整備しないと(転倒による)乗客の負傷の可能性のみならず脱線の危険性もある事を指摘したほうが本社の設備投資の決定が通りやすくなると思ったから。」とか言い出し(*1)、検事に「それは誇張じゃないのか?」と更にツッコまれる羽目に。これにはさすがに弁護側が「検事の主観が入っている」と異義を唱えていたが。
さらにカント(*2)の計算式によって算出された数値の認識についてや、JR西内部の運転教本にあった脱線の危険性を指摘した文言の意味に対する認識についてまで尋問されていたが、何というか聞いているこちらまでおっかなくなる気分だった。教本に関しては全部読み込んではいないとか自分が過去に教わった事とは違うだのとか言ってたし(まあどの分野の職にしろ、自分達の業務における教本を片っ端から読み込む人間はそういないのかもしれない。私とて多分そこまでやらないが……orz)、そんな証言で大丈夫かと思ってしまった。検察側の尋問が終わり裁判官との尋問になった時には裁判官から「(ヒューマンエラー対策と言っておきながら)一体何をしていたんですか!?」という由の、努力を全否定されるような事まで言われてしまっていたし。まあ、弁護側の方は「(資料に『脱線の可能性もある』とまで書いて設備投資の決定を通りやすくした事は)無駄ではなかったですよね。」と言っていたが。
最終的には検察の調書は否定するという事になったが、ではなぜ調書にサインしたのか、調書が間違っているというのならなぜ今回の公判までに調書訂正の申し立てをしなかったのかについては、検察の取り調べを受けたのは初めてでかなりのプレッシャーがあった事、調書にサインした際や一週間前の検事との打ち合わせの際にも訂正して欲しい箇所について検察側と話はしたが聞いてもらえなかった事を話し、そして今更訂正申し立ての書面を提出しても多分訂正して貰えないだろうとの諦めがあったと話していた。
この日の公判に関しては神戸新聞の記事が比較的よくまとめられているかな。
《尼崎脱線事故公判 カーブの危険性否定 元ATS担当者‐神戸新聞http://www.kobe-np.co.jp/news/jiken/0003810932.shtml
 尼崎JR脱線事故で業務上過失致死傷罪に問われたJR西日本前社長、山崎正夫被告(67)の第9回公判が17日、神戸地裁(岡田信裁判長)で開かれた。カーブの自動列車停止装置(ATS)整備を担当していた社員は「運転士は教育を受けているので、脱線は起こらないと思っていた」と述べた。
 社員は、山崎被告が子会社に移った後の2001年ごろ、半径600メートル未満のカーブへのATS整備を提案。会議資料に「最悪の場合、脱線する可能性もある」と記載したことについて検察に問われ、「投資決定されるよう誇張した表現になった」と述べた。さらに「曲線で脱線する可能性があると考えた」と書かれた調書を否定した。
 また、事故調査を担当していた元社員は、山崎被告が発案した取り組みで事故分析に運転士の資質を書き込んでいたことを検察に指摘されたのに対し「運転士の資質を事故の要因とみるのではなく、設備面の対策もしていた」と述べた。 (2011/02/17 22:44)》(*3)
実は私は2人目の証人尋問は見ていない。1人目の証人尋問を見ただけでいろいろお腹いっぱいになり、げんなりして退出したので。まあ日本の裁判など日本という国自体、近代的な法律とそれを取り巻くシステムはあってもまともに機能しない非法治国家というのが実態だろうし、だからこそ警察も検察も裁判所もその程度ないい加減な代物なのだろうとは最近特に思うようになった(それでも全くないよりはマシではあるのだろうw)が、なんだかなあ。調書を否定する事自体は別に構わないが、それにしてもこの日の公判の証人は否定するにしても自信無さ過ぎじゃね? と。まあ彼は検察・警察による本格的な取り調べを受けたのは初めてな上、検察・警察の「正義」は絶対的なものだと思っていたというような事を尋問で言ってたから、検察や警察が巧みにJR西にとって不利な調書を作ってきて「サインしろゴルァ!!」と言って来たならば強く「NO!!」と言えないのも無理はないかなと。私とて同じ状況になった時、おそらく検察・警察側に強く異義申し立てをする事は多分気持ちが萎えてなかなかやらないだろう。それにしてもやはりなんだかなあとしか。
その後三宮まで歩いて行ったが、検察のやり口の是非は抜きにしても、公判でのJR西社員の証人尋問を見た限り鉄道会社の技術職ってやはり予想以上にバカなのかと思ってしまった。自分が言うのもなんだけどwまあこの社員がたまたまモンスタークレーマー並の相手との論争に弱いだけなのかもしれないが、いや、元国鉄技術職でどこぞの関西私鉄の社長にまでなったがハゲタカファンドに喰われてしどろもどろした御仁の例もあるし(笑)案外世の中そんなものかと……そんな事を思いつつもかなりの脱力感と僅かな安堵で胸が満たされた状態でトボトボ歩くしかなかった。なんだw知ったかぶりで日々をやり過ごしているのは何も私ばかりじゃないんだw皆そうかも知れないのだと、改めてそう思った。その後気分を切り替わるまでにどれだけ時間がかかった事やら。それにしてもこの回の尋問担当した検事の人、尋問の仕方を見た限りは接客がダメな自分としては正直クレーマーとして相手にしたくないタイプの人間だなw
神戸地裁福知山線脱線事故の件でJR西の歴代社長一人ずつ起訴するぐらいだったら、いっそ「西日本旅客鉄道株式会社」という組織そのものを起訴したらよかったのではなかろうか。まあ山崎正夫の公判に関しては彼の過去の判断の是非を問うものなので、そもそも罪の有無を問うものではないのかもしれないが……「4・25」の責任は井手・南谷・垣内・山崎の歴代4社長ばかりか、今のJR西のトップである佐々木社長や鉄道部門の最高責任者である西川副社長にだってあるだろ。この日の証人に限らず、事故の責任を最大の当事者である高見運転士一人に押し付けようとしている奴がJR西内部には多過ぎるようで、正直何だかやるせなくなる。JR西よ、お前らは『機動戦士Zガンダム』外伝『ADVANCE OF Z ティターンズの旗のもとに』の地球連邦軍上層部かとw(怒)

(*1)JR西において、全社レベルでの事業への投資決定を決めているのは「総合企画本部」という部署らしい。JR西公式サイトに掲載されている組織一覧表(http://www.westjr.co.jp/company/info/organization.html)にもその名前が見える。ちなみに第8回公判(つまり、この日の公判の前に行われた公判)ではそこにいた中の人が詰められていたようだが、
《元担当者「ATS整備可能だった」 尼崎JR脱線公判‐神戸新聞 http://www.kobe-np.co.jp/backnumber/ama_dassen/0003805875.shtml
 尼崎JR脱線事故で、業務上過失致死傷罪に問われているJR西日本前社長、山崎正夫被告(67)の第8回公判が15日、神戸地裁(岡田信裁判長)で開かれ、安全対策などの予算要求のとりまとめをしていた経営企画部の元設備投資担当者(53)の証人尋問が行われた。(後略)》
神戸新聞の記事ではなぜか「経営企画部」とある。それ阪(ry(http://dentetsu.hankyu.co.jp/company/soshiki.html
(*2)鉄道における「カント」については民鉄協のHPにある説明(http://www.mintetsu.or.jp/knowledge/term/80.html)が解りやすいか。計算式については、
《曲線での速度制限‐鉄道解析ごっこ http://www.geocities.co.jp/Technopolis-Mars/8897/FIG/301/vrmax.htm》及び、
《鉄道線路の話‐安部丹比の交通研究所 http://www6.plala.or.jp/abetanpidf50568/senro.pdf(※PDFファイル注意。記載しているサイトのページURLはhttp://www6.plala.or.jp/abetanpidf50568/tetudokenkyuusitu.htm)》
に詳しい説明があるので気になる方はどうぞ。ところで『鉄道解析ごっこ』の記事によると、「4・25」以前に起きた鉄道事故の件で扇千景がどうやら認識を拗らせて物を言っていたらしいwまあ私自身にとっても笑うに笑えない事だけどw
(*3)『JR事故資料』に転載されたアサヒ・コムの記事(http://blog.goo.ne.jp/kitamura_1965/e/d6b54317e1c5fbac68824a130fc26b09(ちなみにアサヒ・コム関西版のこの件の記事URL:http://www.asahi.com/kansai/news/OSK201102180019.html))によると、この日の証人であるJR西社員の人、阪神電鉄時期社長になる予定の藤原崇起氏辺りと一歳違いらしいのなw公判では後ろ姿しか見てなく白髪染めをしていたせいか、もう少し若いのかなとは思ってはいたが。